第63回目の今回は経済や投資情報を扱う人気のニュースレターを取り上げた。その人気の秘密は既存の経済情報メディアやブログとはまったく異なる内容だった。
個人でニュースレターの運営に成功している例を毎回ひとつとりあげ、それを徹底的に調べてビジネスモデルの仕組みから、なぜそんなにウケているのか、を独自分析してレポートしている。あなたがクリエイターならとても参考になるはず。
ニュースレターに限らず、映画、小説、アニメ、ゲーム、建築、アートなど全てのメディアにおいて本当によく考えられたコンテンツに対して尊敬の念をいだく。
「これ作った人、本当にすごく考えて作っている。すごいな」と。この世の素晴らしい創作物はそうした人達の偉業によるもの。
逆にあまりよく考えていないものを見た時は無性に残念に思う。「なんでこんな完成度でいいと思ったんだ」と。
そういう意味で今「みんなのニュースレター」で配信を開始していただいた方達にはとても感謝している。
「みんなのニュースレター」の配信機能をご利用いただいた方達のコンテンツは、どれもがすごく濃い内容になっている。
リリース前はくだらないコンテンツだけが集まるゴミ溜めになったらどうしよう、と不安もあった。「誰でも書ける=ゴミでもOk」だからだ。しかしそんな不安は杞憂に終わり、すごいコンテンツだけが配信されている。
今はまだ各ニュースレターを横断的に見渡せる機能は付けていない。もう少し数が増えたら付けるつもり。
もしあなたもニュースレターをやってみたいとお考えなら、みんなのニュースレターでやってみてください。ログインして右上メニューから「配信ワークスペース」を選ぶと、誰でも無料で開始できます。
今回の分析レポートはそうしたコンテンツの軸を考える上でとても参考になった。
今回は月に1度の全編無料公開。お楽しみください。
今回とりあげたのはCompounding Quality(以下、CQ)。著者はPieterと言ったり、Chrisと言ったりしているどこかの匿名の元投資家。つまり発行している人の正体は誰も知らない。
プロフィール画像には世界的な投資家のウォーレン・バフェットを使っているがもちろんこれはバフェット氏本人ではない。
CQのテーマは経済と投資。主には株式投資をする人達に有益な情報を提供しているニュースレターになる。
以下の画像は全てCompounding Qualityからの引用
CQの購読者は20万人以上。
経済や投資の分野で情報発信をする会社、個人、メディアは多い。そんな中でニュースレターで20万人以上の購読者を獲得していることから、この分野のトップランカーと言っていいだろう。
CQのXアカウントのフォロワー数は34万人。
34万人もフォロワーがいる時点でたいしたモンだが、その内容もすごい。フォローしている人達がそうそうたるメンバーになっているのだ。
ジェフ・ベゾス、レブロン・ジェームズ、ジョン・シナといずれもすごい人達がこぞってCQの情報を求めてフォローしている。
ジェフ・ベゾスは言うまでもなく、レブロン・ジェームズにしてもただのNBAプレイヤーではない。もちろんバスケットボール界の実績もレジェンド級だが、彼は同時に優れた企業家であり投資家でもある。
彼らは経済的活動においてもトップクラスで保持している情報網も経験値も一般人とは比べ物にならないほどだ。
そんな彼らがCQをフォローする理由は、そこにしかない情報エッセンスが含まれているからに他ならない。
CQのビジネスモデルはいたってシンプルで有料購読プランを売ること。
そのプランは極めて強気で年課金のみ。お値段は通常価格が499ドル/年(年額約7万5000円)。時々ちょっとした割引が適用されてるが、割引があったとしてもかなりの高価格帯になっている。
課金することで有料購読コンテンツの閲覧とコミュニティに参加できる。
全体の収益額はどこにも情報が開示されていなかったが、かなり儲かっていることは容易に想像できる。
これほど強気のプランであっても人気が絶えず、ずっと成長を続けているのだから。
CQにはシンプルな投資哲学があり、その哲学が全てのコンテンツの基礎になっている。
その投資哲学は3つの指標に基づいている。
これは投資の神様ウォーレン・バフェットのやり方とまったく同じ。
この投資哲学に沿ったとしても読者には大きな疑問が残る。「どの企業銘柄を優良企業をみなすのか」「どの指標を見て優良と判断するのか」「どこまで買うのが適正なのか」と。その疑問ひとつひとつに回答を届けるのがCQの役割になっている。
この投資哲学に沿ってCQを見ると極めて地味で、他のと比較して異質であることが分かってくる。
ほとんどの経済メディアは激しく乱高下する株式市場のトレンドに合わせて「次にこれが来る!」「このままでは暴落する!」とやってページビューを稼ぐのが常套手段になっている。
常に乱高下するのが株式市場で人々はいつもそれに狂喜乱舞している。投資をテーマを扱うメディアがそれに拍車をかけるように煽って刺激的なタイトルをつけるのは当然のこと。ずっとその方法でメディアは読者を獲得してきた。
そんな常識にどっぷり浸かっていた人がCQのタイトルリストを見るとちょっと拍子抜けするかもしれない。
CQの経済情報がどんな内容なのか、はタイトル一覧を見ていただくと分かる。CQのタイトルをいくつか抜粋して日本語にした。
何度もここに「CQは地味」と書いてきた意味をご理解いただけただろうか。タイトル一覧を見ても「バク上がり!」とか「必ず儲かる」「大恐慌が目前に迫る」などの刺激が一切ない。
その代わり哲学にそった基礎的投資戦略がたんたんと書かれている。
CQが目指しているのは金融リテラシーの健全な向上。これしかない。
とにかく読者を煽ってページビューを稼ごうとするメディアとは完全に一線を画す。優良企業の詳細な分析はしても「この会社の株さえ買えば儲かる!」などと言うバカな煽り方はしない。
その代わりに「なぜ、どの数字を見てその企業を優良と判断するのか」が事細かに解説されている。
それはこのCQの読者の全員が投資に興味がある人ばかりでもないからだ。中には企業のコンサルタント、経営者など純粋に経営や経済の勉強のために読んでいる読者もいる。
共通しているのはCQの読者は誰もが健全な金融リテラシーの向上を目指していること。
CQの独特の語り口はとにかく面白く、CQでしか味わえない。
ほとんどの投資情報なんて「儲かりそうだから読む」というのが動機の大半で、読み物としてはつまらない。しかしCQは違う。とにかく面白いし勉強になる。
“A good business is like a strong castle with a deep moat around it. I want sharks in the moat. I want it untouchable.“ – Warren Buffett
優良企業とは深い堀に囲まれた堅固なお城のようなもの。誰も近づけない。私ならその堀にサメを泳がせておきたい。誰も来る気すら無くなるように。
ウォーレン・バフェット
CQが解説する。
質の高い投資家は「誰も知らない次のすげーこと」を探していない。すでに勝っている企業に投資する。過去何年も、できれば何十年も勝ち続けてきた、強力なマーケットリーダー企業に投資する。そんな企業の周りには必ず深い堀がある。
この堀の戦略はCQのニュースレター戦略にも当てはまる。たくさんある経済情報メディアの中でCQのような語り口は誰にも再現できない。
語り口の独自性こそがCQへの参入障壁になっている。
CQの読者が受け取るすごいメリットのひとつに、調べるのにとても時間がかかる内容をギュっと詰まった状態で受け取ることができること。
例えばウォーレン・バフェットひとつをとっても彼のこれまで発信してきた書面は膨大な数になる。何千ページもある書面を全て読み通すことは非常に難しい。CQではそうした膨大な内容をポイントを絞って誰でも数分で要点が理解できるように解説している。
他にも優良企業の分析など、本気でやったら何日もかかりそうなことを読者が数分で読み通すことができる状態にして提供している。
年間にして数万円、月にしても6千円以上の価値のあるコンテンツとはそうした時間をかけてでもじっくりと調査されたモノになるのだろう。
CQのコンテンツはそうした価値を端的に示している。
CQはネタの使いまわしがとても上手い。
ひとつのネタをニュースレターに書いて、そのポイントだけを抜粋してX(旧:ツイッター)に投稿。そのX投稿の反応をまたニュースレターに書く。そしてまたそれをXに循環させる。と同じネタを何度も別メディア間で往復させている。
コンテンツに込めたメッセージ性が浅い内容だとこれはできない。やはり投資的な観点から見ても何十年も耐えうるような芯のあるコンテンツだからこそできるのだ。
底の浅いメッセージしかないコンテンツではこんなマネはできない。
After Bill Gates became friends with Warren Buffett, he began to diversify his portfolio and sold Microsoft shares.
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Compounding Quality @QCompounding
Bill Gates' fortune today is 138 billion dollars, if he hadn't diversified it would be 1.33 trillion dollars.pic.twitter.com/DLMUZ2iO2T— Compounding Quality (@QCompounding) February 22, 2024
CQは読者に支持されるコンテンツ提供をずっと継続している。これこそがCQの人気の秘密。
投資情報メディアの世界は「株価大暴落」「バク上がり間違いなし」「国民総失業時代の到来」などという刺激的なフレーズにあふれている。そういう情報発信では一時的なページビューは稼げても、本当の意味での読者との長期的な信頼関係を築くことはできない。
CQがやり続けているのはその対極。目先のページビューを無視して、本当の意味で読者の金融リテラシーを向上させるために必要な情報をたんたんと提供している。CQの著者は匿名だし、顔写真も無いし、こともあろうか世界的に有名な投資家の顔写真をギャグのように使っている。
それでもコンテンツの方向性には間違いなく読者の支持がある。情報に込められた誠実な姿勢の積み重ねが購読者たちに伝わっているのだ。
よくよくCQのコンテンツを見直してみると、これこそがニュースレター戦略の王道だ、と言える。ページビュー至上主義が過去のものになりつつある今、クリエイターは発想の転換が求められている。
読者との信頼関係の構築こそが重要なのだ。
大切なのは意味のあるコンテンツ提供を継続し、読者との信頼関係を築くこと。このシンプルなことをやり遂げたニュースレターだけが人気を獲得できる。
CQはそのことを身をもって証明している。
今回の分析は以上です。ぜひご感想をお寄せください。
このニュースレターでは常時みなさんからのご意見とご質問を募集しています。
ジャバザハットリさん。いつも参考になるメルマガをいただきありがとうございます。
「週1でニュースレターを書いているやり方をそのまま公開する」がとても参考になり、自分でもメルマガをやってみようと考えています。ひとつお聞きしたいのですが、テーマをひとつに絞れない場合に3つぐらいを設定しておいて、週ごとに変えていく方法でも大丈夫でしょうか?
これまでジャバザハットリさんがテーマには一貫性が必要と書かれているのを何度か読みました。確かにそのとおりと思うのですが、その一貫性あるテーマが3つあるとどうでしょうか?ご意見をお聞かせください。
いいご質問ありがとうございます。
お答えはその3つのテーマに共通のゴールがあれば大丈夫、になります。
お考えの3つのテーマが何なのかが不明なので、ハッキリしたことは判断できないですが、とにかくそれぞれを束ねるゴール設定が重要になります。例えばその3つのテーマがこのような場合
これだと3つあったとしても共通のゴール設定として「情報発信でトップに躍り出る方法」とかになるので大丈夫でしょう。
逆にその3つが全く別のなんの共通ゴールも無い内容になると、再度検討した方がいいと思います。
読者がニュースレターの購読を検討する際の心理状態をイメージしてください。
ある記事を読んで「いいな」と思ったとします。でもそれだけでは購読には至らないです。単体の記事をいいと思うことと、その後にも継続して読み続けることは別だからです。
読者が購読ボタンを押すのはいくつか連続する記事に共通するテーマに共感した時です。「こんなテーマの記事が定期的にずっと届くのだったらいいな」と思った時。この感情をテーマ無しに呼び起こすことは不可能です。
だからこそニュースレターではテーマが重要になります。3つでももちろんOkですが、できればそれらのゴール設定は共通に。
参考にしていただければ幸いです。ちなみにサイト名にも入れてますしメルマガというより「ニュースレター」と言っていただけると嬉しいです。
このメッセージをメールで読んでいただいている方は購読中ですね!ありがとうございます!
ではまた来週の月曜日の朝にお会いしましょう!