第8号目の今回はデザイン分野のトップに位置する有料ニュースレターを事例としてとりあげた。最初そのニュースレターを読んだ時、その内容からして「トップにカテゴライズされているのはなんか表示の間違いかな?」と思ったほどだった。しかしそういう考え方こそがそもそもの間違いだったことに気がついた。
このニュースレターはコンテンツのクリエイター、自分のファンを得たい人、課金モデルを成り立たせたい人に向けて書いている。
個人でニュースレターの運営に成功している例を毎回ひとつとりあげ、そのコンテンツを徹底的に調べてビジネスモデルの仕組みから、なぜそんなにウケているのか、を独自分析してレポートする。あなたがクリエイターの方ならとても参考になるはず。
クリエイターにとってニュースレターの登場が有利に響いていることのひとつが要は「誰かのトップ3コンテンツに入りさえすれば成功できる」という点がある。
ポイントはみんなのトップ3ではなく、たくさんの人達のトップ3でもなく、「誰かのトップ3」ということ。これはブログやSNSでいまいちフォロワー数が獲得できなかった人でも、というかそういう人にこそチャンスがある。
はじめてニュースレターというメディアを知った方向けにざっくり説明
ニュースレターとはブログにメールマガジンとサブスク機能を合わせたメディア。英語圏で爆発的に普及し多くのクリエイターにとっての収益源となっている。最終的には読者にメールを通してコンテンツが配信される仕組みになっている。
通常、人が有料ニュースレターを購読する時、最大でいくつぐらいを購読できるか?10個なんて多すぎる。5個でも多い。有料ニュースレターが5個もあったら「どれか削ろうかな」と考えるだろう。せいぜい3つが限界だ。そこに無料のニュースレターも合わせればだいたい10個ぐらいだろう。
人が1日に読める文章の量には限りがあるし、基本的にニュースレターの情報は濃いし量も比較的多い。サラっと読めるような内容ではなく、もっとじっくり読むような内容だ。
ゆえにニュースレターで成功したければ、それがどんな分野であってもトップ3に入らなければならない。最大限でもひとりの読者に購読してもらえるのは3つまでだからだ。
例えばあなたがニュースレターを発行する際に内容とテーマを「ビジネス系」としたとする。するとネット上にはホリエモンとかのビジネス界の百戦錬磨のスゴ腕の人達がコンテンツを提供している。そういう中でトップ3に入るのは至難の業になる。
よほどの知名度とそれ相応の知識、ビジネス経験の持ち主でなければトップ3なんて無理だろう。
なのでほとんど競合が存在しないニッチを攻めるのが最初のセオリーになる。
実際に英語圏のニュースレター全般を見渡してみるとトップのニュースレター発行者ほど「え?そんなニッチな内容でいいのか?」というぐらいに狭い領域をテーマにしたのがある。
そんな風に「こんなニッチな分野でコンテンツを提供できるのは地球上にあたしだけよね」と言えるぐらいであれば確実にトップ3に入ることができる。成熟したネット社会においてはどんなにニッチな分野でも、そんなコンテンツを求める人達が必ず居る。ニッチほどそれを求めるニーズはより深くなる。
さらに今の時点でクリエイターに有利なのは「現状、ほどんどの人はまだニュースレターなんて購読していない」ということ。あっても企業が広告のようにウザく送ってくる広告メルマガぐらい。まだまだユーザーのニュースレター3枠には空きがある。空きがある間にニッチを攻めて3枠のひとつを取ってしまうのはいい戦略になる。
ニッチ分野を攻めることはとても有効な手段であり、かつ誰にでも応用が可能なこと。そんな例を示すのが今回の分析レポートになる。
今回とりあげたのはThe American Peasant(アメリカの農民)。これは木工家具作りをテーマにしたニュースレターになる。プラットフォームはSubstackが使われている。Substackはカテゴリーごとに分けられていて、デザインカテゴリーのナンバー1有料購読者数がこの「アメリカの農民」になっている。
有料購読者数はten thousands of paid subscriber(数万の有料購読者数)となっていて、ザっと計算しただけでも毎月すごい収益になっていることが分かる。
著者のクリスさんはプロの家具職人。自宅にある工房で木製の家具を作りつつ、ニュースレターの運営、本の出版を行っている。
ニュースレターを読めばおそらくほとんどの読者が感じることがある。それはクリスさんはただの家具職人ではない、ということ。家具を作ることを通して感じる思いを文章にして表現するのが異様に上手い。さすがに本も出版していることもあり、彼は職人であり物語を語る作家のようでもある。
もし英語の勉強をしている方がいたらぜひ購読してみてはいかがだろうか。英語ってこういう風に書くといいよね、とお手本にもなる。
基本のテーマは木工家具になる。写真もふんだんに使って、作りかけの木工家具、完成した美しい木工家具が見れる。
しかし記事内容はそんな家具作りを丁寧に教えてくれる部分はあまり無い。記事のほとんどはDYIなどで自分で木を使って家具を作る際にある心の有り様を描いた内容だ。
読者もおそらくDYIや家具作りが好きな人達でそういう読者達が「あー木で作ってるとそういうことってあるよねー」という気持ちを詰め込んでいる。
つまり天然の木を使って家具を作ることを、そうして作った家具を誰かに使ってもらうことを描いたエッセイだ。
ある記事で家具を作ることの精神性について言及されていた。
クリス氏は天然の木を相手にすること。家具作りの過程において木の香りを感じつつ作業をすること。作りあげた家具を自分の家族が使う様子を眺めること。それら全てが尊い瞬間であることを説明していた。
しかしそうした家具作りがセラピーの効果がある、なんて煽ることの危険性についても言及している。
ただそうした精神性を語ってしまうぐらいに木工作業で木の特性に向かい合うことにはなにかがあるようだ。
課金体系は何も特別なことはしていない。各記事に有料購読者だけが読める部分があり、月に5ドルを課金すると読める。コメントもできる。ただそれだけ。
Substackにあるニュースレターのほとんどが採用している有料プランをそのまま適用している。
ここまででザッとではあるが「アメリカの農民」のコンテンツ内容をだいたい把握いただけたと思う。
以下にこの「アメリカの農民」がなぜSubstackのデザイン部門でナンバー1の有料購読者数を誇るのかの私なりの分析結果を書いた。
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