第37号目の今回はとあるポッドキャストについて。それはSpotifyにてファン課金の仕組みを構築している人の話。ニュースレターだけでなくほぼ全てのデジタルコンテンツ制作において参考になる話がたくさんあったので、対談の一部を日本語訳した。
これはコンテンツのクリエイター、課金モデルを成り立たせたい人に向けて書いている。
個人でニュースレターの運営に成功している例を毎回ひとつとりあげ、そのコンテンツを徹底的に調べてビジネスモデルの仕組みから、なぜそんなにウケているのか、を独自分析してレポートする。あなたがクリエイターならとても参考になるはず。
以前の記事「ビジネス分野でNo.1ニュースレターの人気の秘密はとてもシンプル」で紹介したLenny's Newsletterでとても興味深いポッドキャストが配信されていた。
まずLenny's Newsletterが文字通りビジネス分野では圧倒的な人気を誇るニュースレターで私自身もかなりベンチマークさせてもらっている。その著者であるLennyがなんとクリエイターエコノミーのど真ん中で活躍する人との対談があった。その人とはカミーユ・ハースト(Camille Hearst)。
こんな2人がそれぞれの知見を交換し合う対談なんて聞き逃す訳にはいかない!となって聴かせてもらった。それは期待した以上に実りのある対談だった。
カミーユさんは現在、Spotifyでアーティスト課金の仕組みを統括するポジションで活躍している人。彼女の経歴はまさにクリエイターエコノミーのど真ん中で何年にも渡って活躍し、実績をあげてきた。
彼女の経歴をざっと説明する。
アメリカのサンフランシスコに生まれ、地元のスタンフォード大学でエンジニアリングを専攻。
スティーブ・ジョブズが在籍していた当時のAppleでインターンをした後、iTuneの音楽部門でプロダクトマネージャーとして従事する。入社時には全世界で7番目の音楽販売会社だったAppleのiTuneを5年で世界ナンバー1にまで押し上げる。
Appleを退職した後はGoogle、YouTubeなどで働いた後、起業してHailoというSNSを立ち上げる。
HailoをPatreonに売却した後、Patreonのゼネラルマネージャーとして働く。その退職後はSpotifyに入りそれまでの経歴で培ったノウハウをもとにSpotifyに所属するアーティストへの課金をいかに最大化するかに集中し、Head of Spotify for Artistsとして活躍中。
それぞれのクリエイターがその創作物からの収益を最大化する上で彼女は欠かせない人材となっている。
ポッドキャストでカミーユが語っていた内容の意訳とその感想を書いた。まずホストのLenny氏からの質問。
Lenny「カミーユはキャリアを通してずっとクリエイター達と活動しているけど、クリエイターと働く上で最高のことと最低のことってなに?」
カミーユ「最高のことってのは本当の意味でクリエイティブに人生を捧げている人達と一緒に何かをできるってことね。
Spotifyではトップアーティストから、今日から音楽で生きていくこと決断した人まで様々なアーティストやクリエイターと関わっているけど、誰もがクリエイティブにある種の人生を捧げている。そんな人達から受けるインスピレーションや彼らの生き様を間近で見ることができるのは最高。
音楽で生きていくってそんなにカンタンなことじゃないでしょ。でもそれを本当に実行する人達に生業として生計を立てるため、収益源を一緒に確保するってとってもやりがいのあることよね。
それでこれは同時にあなたが質問した『最低のこと』ってのにも通じる裏返しでもある。
Spotifyだけじゃなくて、Patreon社に居た時もずっと感じていたことでもあるんだけど。アーティストやクリエイターって自分の創作物をとにかく全てのファンに届けたい。それが無料でもいいから、みんなに届けたいって思ってしまうもの。
それに半ば反対して『いや待って。ちゃんと値段をつけて販売しましょう』ってやるのが仕事。でもある意味で最低のことってこれに当たるかもしれない。
音楽はもちろんアートや創作物を売ることって生活用品などの販売とは少し異なる。作品にはクリエイターの考えやアイデンティティが含まれると、そこに値段をつけて売ることがたとえ生活を成り立たせるって目的があったとしても、クリエイターにとっては複雑な感情になってしまう。
今のデジタル上のプラットフォームはだからこそその役割においてとても意味がある。作品に値段を付けたり、上手く流通にのせるなどのアーティストにとってすごく骨が折れる仕事を代わりにやるのだから。」
Lenny「すごくよく分かるよ。実際に僕も最初にニュースレターに値段をつけて有料化して購読者に売りつける時に決していい気分ではなかったからね。」
この話の感想
とても興味深く聴いた。カミーユはもちろんLennyにしてもニュースレターの世界ではトップの中のトップでとんでもない額を稼ぎ出す人。そんな彼らも課金に対する抵抗と葛藤を抱えているとは。
ここで課金を担うプラットフォームの役割は重要で、そんなプラットフォームがあるからこそクリエイターも活躍できるのだろう。
プラットフォームはややもすると「クリエイター搾取」とか「ヤクザ商売」なんて批判されたりすることもあるが、本来の意味においてはクリエイターとプラットフォームは協業関係にあるべきなのだろう。
カミーユは先日、とある人気ストリーマーがニューヨークで起こした事件について話す。その事件とは人気TwitchストリーマーのKai Cenatがとある告知を行ったことから始まる。
それはマンハッタンのユニオン・スクエアに来ればプレイステーションやギフトカード、ゲーミングチェアを無料配布するよ、と言ったこと。
それを聞いた数万人の十代の少年少女たちが押し寄せ、その一部は暴徒化してしまった。まわりの施設に対して破壊行為にまで及ぶことになり、警察も出動して制御しようとするがまったく収まらなかった。ニューヨークの中心部を一時は閉鎖して対処することになってしまう。
結果的には多数の逮捕者とけが人を出すことになってしまい、ストリーマーのKai Cenatも逮捕されることになった。
カミーユ「おそらく先日のニューヨークで起きたKai Cenatの事件はティーンエイジャー以外の人達はKai Cenatって一体誰なのかも、なぜ十代の若者たちが一斉にユニオン・スクエアに集まってるのかまったく理解できていなかったと思う。
社会としてはあの事件に対して反省しなければならないことは多々ある。
それは置いておいて、現在のクリエイターエコノミーが多くの人が想像しているよりもさらに深く広く社会に浸透していることを示すことになった。
きっとあの時、ユニオン・スクエアに集まったティーンエイジャー達はストリーミングを視聴している人達だろけど、それと同時にほとんどの人が自らもコンテンツを発信するストリーマーもしくはクリエイターでもあった。国民総クリエイター時代って言ってもいい。
その証拠にあの時の暴動の様子もライブでストリーミングされていたのだから。
ストリーミングの文化は誰も想像できないぐらいに細分化されていて、十代に絶大な人気のストリーマーは20代にはほとんど知られていない。でもその影響力は絶大で他の世代の人達の予想を遥かに超える。
つまり誰もがクリエイターでそのクリエイションの消費者で、その内容も世代ごと、好み趣向ごとに細かく細分化されてとても深くなっている。
こんな時代に『ゲームストリーミングなんてただゲームしてるだけでしょ』なんて態度ではきっと時代の大きな流れに取り残されてしまうと思う。」
この話の感想
Kai Cenatの事件はどこかで読んだ。でもその時はここまでクリエイターエコノミーのことを考えなかった。しかしカミーユの話を聞いて、確かにクリエイターエコノミーのあり方として象徴的な事件だったのかもしれないと思うようになった。
もうこれからは誰もが知っている有名人はどんどん居なくなって、特定の世代や特定の領域で超有名な人がたくさん居る時代になるのだろう。
Lennyからの質問「コンテンツビジネスの未来ってどうなると思う」に対するカミーユの回答
カミーユ「今のコンテンツプラットフォームが狙っている一つの方向性は自動生成。それは単にAIによるコンテンツの自動生成だけを言ってるんじゃない。
現在のクリエイターは馬車馬のようにひたすらに働いて働いてコンテンツを作らされているような感覚に陥っている人が多い。『いつまで、どこまで、コンテンツを作り続ければいいの?』って。
そういうクリエイターの疲弊をプラットフォームが少しでも助けようとしている動きがある。そのひとつがコンテンツの自動生成。AIを使わなかったとしても過去のそのクリエイターの作品を上手くまとめてキュレーションすれば、ファンにとっても嬉しい作品集にすることができる。
もちろんAI生成もそのひとつの解決策になるかもしれない。そのクリエイターの作品群を大規模言語モデルに読み込ませて新しい作品にしたり。もちろんここには解決するべき権利問題や著作権の壁があるんだけど。
とにかく言いたいのはプラットフォームは毎日毎日コンテンツ制作に費やしているクリエイターを少しでも『今日は休んでいいよ。後はプラットフォームがやっておくから』ってしようとしている。
きっとこの流れは今後どんどん大きくなってくるでしょう。コンテンツ自動生成の波は今はそこまで大きくなっていない。それにどのプラットフォームがこの波をとらえるのかも不明。
YouTubeかもしれないし、TikTok、Spotify、サブスタックかもしれない。ひょっとしたら今はまったく誰も知らないプラットフォームがその波をとらえるのかも。
ただ言えるのは今後のクリエイターを支える仕組みとして自動生成はひとつの要素になるってこと。」
この話は具体例が少なく抽象的な話で終わってしまったが、かなり興味深い内容だった。確かに世の中にはコンテンツが溢れていると言われるが、それでもまだまだクリエイターは生み出さなければならない。人はずっとよりいいコンテンツを求めているのだから。
そこに高品質な自動生成コンテンツが出てくれば確かに世の中が変わるのかもしれない。クリエイターにとって上手くコンピュータやAIによる自動生成とタッグを組むことは成功への近道になるだろう。
カミーユとLennyのポッドキャストを聴いた時に「これは今までになかなか無かった対談だな」と感じた。
まずカミーユは自らコンテンツを作り出すタイプのクリエイターとは少し異なる。彼女はむしろプラットフォームを管理する立場で、その視点からの話がメインだった。最終的な目的はより多くの収益をクリエイターにもたらすこと。これはクリエイターもプラットフォーム管理者にも両者に共通するゴール。しかし立場と視点が異なることで同じ現象でも捉え方が異なる。
今まで私が参考にしたり、聴いたりしていたポッドキャスト、対談のほとんどはクリエイター視点の対談だった。ものすごく人気のニュースレターを配信しているクリエイターを招いて、そのニュースレターの誕生の経緯や購読者を獲得するコツなどを話すパターン。ちょうどこの「【週間】1万ドル以上を稼ぐ個人サブスクメディアを徹底的に分析したらこうなった」もそれに当たる。
対談がはじまって最初の数分は私もいつものように「なにかニュースレターを書く上で参考になる話はあるかな?」というテンションで聴いていた。
しかし話が進むにつれてカミーユの視点にとても興味を惹くようになっていった。そしてこれはそういうクリエイター目線で聴く対談ではないな、と気がついた。
まずカミーユを招いたホストがLennyというのが素晴らしい。Lennyはクリエイターとしてバリバリに活躍する第一線の人だ。そういう若干異なる立場の彼から質問や意見交換があるからこそ対談に意味が出てくる。
プラットフォームの人とクリエイターは協業関係にあって、互いの思いをぶつけ合ってこそいい創作物が産まれる。
そんな対談からは言語外の雰囲気も伝わってくる。2人とも第一線で活躍するすごい人達でそんなレベルに達した人だからこそ出てくる言葉のやり取りにすごく刺激された。
この対談は「こうすればいいクリエイターになれるかも?!」というようなのとは異なり、もっと視点を大きくした話が多かった。クリエイターエコノミーの未来や、これからの未来において各クリエイターはどう生き抜くべきか、ということだった。
そういう視点で考える材料としてとてもいい対談だった。リンクも貼ったのでぜひ彼らの対談を聴いてみてください。
おすすめです。
「みんなのニュースレター」とは今、絶賛開発中のニュースレタープラットフォーム。
誰でもカンタンに日本語でニュースレターの発行と課金ができる場所。
おそらく今週か来週には購読者の方の1000名ほどにテストメールをお送りする。内容はたった2行。
これは「1万ドル以上を稼ぐ個人サブスクメディアを徹底的に分析したらこうなった」をご購読の方にお送りしているテストメールです。今後はこちらのメールアドレスから配信する予定です。
メール配信機能は完成しているのだが、まだ100アドレスぐらいの規模でしかテストしていない。購読者さんは5000名ほどいるのでそれだけの量のメールを送った時の負荷がどれほどになるのかテストする必要があるので、やってます。
もし届いたとしてもただのテストですので、お気になさらず。
課金機能はほぼ完成した。今はStripeへの審査を通すために書類やウェブサイトの内容を整えているところ。
ここまできてStripeの審査に落ちたりしたら元も子もないので慎重にやっていくつもり。
このニュースレターでは常時みなさんからのご意見とご質問を募集しています。
こんにちは!毎週ニュースレターを楽しみにしております。
ハットリさんの開発されているニュースレターシステムのリリースに合わせて、自分でニュースレターを始めようと思っています。そこで相談です。
めちゃくちゃ嬉しいです!!
サイトを開設した後に誰もニュースレターを書きに来ていただけなかったら、どうしよう、とすごく心配なのでとっても勇気づけられました。がんばります!
それにしても「もうすぐ」「もうすぐ公開」と言いつつ伸びてしまっていて申し訳ないです。すみません。
1. ニュースレターの第一回配信までにやるべきことは何でしょうか。考えているのはTwitterで期待感を煽るために、ニュースレターで発信する予定のテーマについてTweetしておきフォロワーを増やしておくことですが、ハットリさんでしたらどうされますか?
確かにX(旧ツイッター)でテーマに対する反応を見ておくのはいいことだと思います。どんなテーマかは分かりませんが、ニーズが無いとなるとニュースレターを続けるのがどんどんキツくなりますからね。
後は市場調査ですね。特に英語圏とかであれば同様のテーマで配信しているニュースレターが必ずあると思うので、そういうのをベンチマークしておきます。たくさん読んでおけばネタとか書き方がすごく参考になります。
私自身もこのニュースレターを開始する前にいろいろ読み込んでかなり研究しました。もし最初から自己流でやってたら思いっきりスベっていたと思います。いいニュースレターには型がありますし、そうした型を忠実に再現するのはいい手段になるでしょう。
2. 第一回配信以降、テーマの改善していくべきでしょうか?それとも10回くらいは配信し続けててみてからテーマを変えるべきか検討するべきでしょうか?ハットリさんのニュースレター分析記事を読んでいる限り、時期尚早な変更はよくない、諦めずに続けるべき、のような印象を受けましたが、改めてアドバイスいただけると嬉しいです。
そうですね。確信があるなら、しばらくは続けるべきですね。わりとすごく人気のニュースレターでも初期段階で低空飛行が続いたのがありますので。
きっとそうした人気のニュースレターには、かつて低空飛行していた期間にも「これは続ければイケるかも」みたいな確信があったような気がします。購読数は少ないけれどすごいコアなファンがついている、とか。やたら熱い応援のメッセージが来ていた、とか。
もしそうした何かを感じているのなら続けるべきでしょう。しかしどんな創作活動にも言えるのですが、低空飛行の時期に「やめてしまうか?続けるか?」は永遠に答えの出ない問題ですよね。私もよく悩んでます。
で、これはコンテンツを消費されるみなさんに言いたいのですが、もし本当に「いい!これはいい!」と思ったらそれを作った方にできるだけその思いを伝えていただきたいです。コメントでもなんでもいいです。ぜひ伝えてください。
たったひとつのコメントがその創作活動が続く動機になったりもします。創作活動はとにかくキツいです。クリエイターにとっては、いつ休止してもおかしくない中でやっていることがほとんどです。少しでも応援したいお気持ちがあるのなら、ぜひコメントしてください。今、みなさんがどこかでご覧になっている超人気コンテンツも遠い昔にまだ人気が無かった時代に、誰かがそっとコメントしたことでかろうじて継続に繋がっていたのかもしれません。
私もいいのを見つけたら、できるだけ作者にコメントするようにしています。
個人として有料ニュースレターを発行していて、悪質な購読者から「訴えられる」というリスクがあります。たとえば、商取引掲示を逆手にとって「住所を開示せよ」と迫るようなケースです。幸いそういうケースに直接私が出会ったことはありませんが、ある女性個人クリエイタがそういうストーカーもどきにあって、個人のマネタイズを諦めたというケースは知っています。
とあるニュースレタープラットホームでは、クリエイタに対して「私たちが勝手に読者にクリエイタの情報開示をすることはありません」と謳っていたりします。それがどこまで本当かはわかりませんが、少なくとも弁護士などと連携してクリエイタを守る姿勢は明示的に打ち出しています。
そのあたり、「みんなのニュースレター」ではどのように考えますか。個人で運営すると、法的な「ガード」は難しいと感じるのですが。
確かに個人情報保護はしっかり守らなければならないことですよね。個人運営だからと言って許されることはないと認識しています。
ただ「みんなのニュースレター」のデータベースに保存される個人情報はメールアドレスだけになります。メールアドレスの流出を防ぐためにしっかり抑えておけば大事故は防げると考えています。
決済情報はStripeに入っているため、私のデータベースにはStipeへの認証IDだけが保存された状態になります。個人でウェブサイトを運営管理する経験はもう何年にもなりますが、幸いにもそうした悪質な目にはまだ会っておりません。
おそらく主要なデータベースのレコードを暗号化しておくことと、大事な部分はStripeなどの決済会社の実装を忠実になぞることで防げているのだと思います。
「みんなのニュースレター」の公開前にこのような大切なコメントとご指摘をいただけてよかったです。しっかりやっていきます。
ありがとうございます。
他にもたくさんご質問とご感想をお待ちしています。ぜひください。
あなたがクリエイターで少しでもニュースレターの発行を考えているのなら、ぜひこの「【週間】1万ドル以上を稼ぐ個人サブスクメディアを徹底的に分析したらこうなった」を購読してください。あらゆるノウハウを詰め込んでます。きっと参考になるはず。
ではまた次回の月曜日の朝にお会いしましょう。まだ未購読の方はまた次回に会うために購読が必要ですよ!