第17号目の今回はLenny's Newsletterという、私がかなり前から購読している大ファンのニュースレターを取り上げた。長期間に購読しているので、かなり深くその人気の秘密を分析できたと思う。
これはコンテンツのクリエイター、課金モデルを成り立たせたい人に向けて書いている。
個人でニュースレターの運営に成功している例を毎回ひとつとりあげ、そのコンテンツを徹底的に調べてビジネスモデルの仕組みから、なぜそんなにウケているのか、を独自分析してレポートする。あなたがクリエイターならとても参考になるはず。
この「【週間】1万ドル以上を稼ぐ個人サブスクメディアを徹底的に分析したらこうなった」を創刊した当初の主張はずっと
みたいな調子だった。
それがしばらく自分でも運営していくうちに
と変わっていった。別に最初に言ってたことが嘘だった訳ではない。いいものはいいし、今でもいいと思っている。しかし発行を重ねるごとに難しさが身にしみて分かってきた。
そうした難しさを突破する方法のひとつがその道の1流の仕事ぶりを見ること。ニュースレターの場合はクリックひとつ、ちょっと課金するだけで1流の仕事ぶりをスグに見ることができるのでカンタンだ。
今回紹介させてもらうのは間違いなく1流のニュースレターだ。著者本人はとても物腰の柔らかい人で威張ったりしないし、ポッドキャストで聞いてもなんでも丁寧に説明してくれる。
そしてこの著者のアドバイスは全てのクリエイターにとって真芯を捉えたような学びがある。
今回とりあげたのはLenny's Newsletter。著者はLenny Rachitsky氏。テーマはITビジネス。Aboutページには「ビジネス分野でNo.1のニュースレター」と書かれている。どんな基準でNo.1と言えるのかは不明確だが、No.1と言ってもいいぐらいにすごい人気のニュースレターだ。
Lenny's Newsletterの現在の無料購読者数は38万人。有料購読者数は非公開。Lenny氏がインタビューで収益について質問されても、だいたいは「以前に働いていた勤め先の月給よりかはお金が入ってるね」と言う程度でハッキリとは公開していない。
しかし1年前のインタビューでちらっと語っていたのは「もうちょっとで2M/年(約2億6000万円)に届きそう」と、ほんの一瞬ポロっと言っていた。これが本当ならほぼひとりであげている収益としてはすごい金額なのは確実だろう。
ビジネスモデルは月に15ドルを課金すれば有料コンテンツと課金ユーザーだけのSlackコミュニティにアクセスできる。
ニュースレターの生まれた経緯はその著者の経歴と重なる部分が多くあるので、その概要をざっと書いた。
まずCEOとしてLocalmindというスタートアップを立ち上げる。Localmindはローカル情報のリコメンドサイト。位置情報に紐づけてて「どこのバーが盛り上がってるの?」とかの情報をその地域のユーザーに情報提供するアプリ。大成功とまでは言えないが、その会社が大手IT企業のAirBnBに買収される。買収と同時にLenny氏はAirBnB社にプロダクトマネージャーとして参画する。
AirBnBには7年勤める。数年前のCovidで同社は大打撃を受け、そこでLenny氏も将来について模索する。また別のスタートアップでも立ち上げようと考えていたが、その前にひとつ記事を書いてMediumにアップする。するとそれがやけにバズる。
友人らと「コロナでAirBnBがもうヤバいし、どうしようかと思ってるんだ」と話していた。すると口々に「この間のMediumの記事みたいにもっと情報発信する方が君には向いてるんじゃないか」、と言われる。
前から気になっていたニュースレターをまずは発行して様子を見る。またたく間に人気が出て、9ヶ月後に有料化に踏み切ると同時にAirBnBを退職してフルタイムでニュースレター発行にあたる。
Lenny氏の経歴からも分かるようにニュースレターの内容はIT企業運営の全般になる。内容は以下のように多岐に渡っている。
つまりIT企業で働く人、起業を考えている人ならだいたいは興味がある内容が網羅されている。
こちらHow to kickstart and scale a consumer businessに興味深い分析記事が載っていたので要約を書いた。
大成功した50社のスタートアップの事業アイデアを分析したレポートが示唆すること
果たしてアイデアに価値はあるのか?
- 顧客からの声で事業のアイデアを得たのは1社だけ
- 創業者自身の問題解決からアイデアを得たのは30%以下
- ずっと事業のアイデアを考え続けて着想を得たのは1/3以下。2/3以上は起業のアイデアがたまたま思いついた
- 約20%のアイデアがピボットすることによってもたらされた
- 50%以上のアイデアがリリースと共にバズることを計画していたが、まったくバズらずに終わった
- 2/3以上のスタートアップがエンジニアリングのバックグラウンドを持つ共同創業者がひとり以上いる
- MBAを持っている創業者は全体の10%以下
- 製品を構築するための特定のハードスキル(バイオ、研究、VRなど)を持っていた創業者は全体の3分の1以下
アイデアの分類とその具体例
- 自分自身の問題からくる方法(~30%)
- 好奇心にしたがう方法(~20%)
- すでに機能しているものから着想する方法 (~18%)
- パラダイムシフトに注目する方法 (~15%)
- ブレーンストーミングをする方法(~15%)
1. 自分自身の問題からくる方法
Dropbox
Drew HoustonはUSBメモリを紛失し続けたため、クラウドベースのファイル同期を構築し、それが後のDropboxになる。
Airbnb
Joe GebbiaとBrian Cheskyは家賃を支払う方法を考えていて、自宅のソファーベッドを旅行者に貸すことにした。それがAirbnbのはじまり。
Uber
ギャレット・キャンプは、サンフランシスコをちゃんと移動できないことにイライラしていて、より良い解決策を考えだした。
2. 好奇心にしたがう方法
ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは、数学的な特性を持つウェブに興味を持ち、ページをランク付けするクローラーを作った
ツイッター
ジャック・ドーシーは、友人に簡単な近況報告を送る仕組みを思いつき、2週間でプロトタイプを作り上げた。
3. すでに機能しているものから着想する方法
ケビン・シストロムは、Burbnというチェックインアプリを運営していて、とにかく写真を共有することに使われていることに気がつく。それでBurbnを捨てて、写真共有に特化したアプリを再構築。それが後のインスタグラムになる。
YouTube
創業者たちは、動画ベースの出会い系サイトを運営するが出会いのために動画をアップロードされることがほとんどない。 仕方がないから、あらゆる種類の動画を扱う一般的なビデオプラットフォームとして再スタートすると人気が出るようになった。
4. パラダイムシフトに注目する方法
スポティファイ
Daniel Ekは、音楽の未来が有料とストリーミングに移行していくことをそれが起こるずっと前に確信した。
Amazon
ジェフ・ベゾスは、ウェブが年間2,300%成長していることに気づき、オンライン販売によって最も恩恵を受ける商品、すなわち書籍に目をつけた。
5. ブレーンストーミングをする方法
Netflix
カスタマイズされたスポーツ用品、サーフボードの名入れ、愛犬のために作られたドッグフード。これらはすべて、ネットフリックス創業者のリード・ヘイスティングスとマーク・ランドルフが話し合って考えたアイデア。
彼らは何ヶ月もかけて研究し、議論し、ファミリーレストランで何度も打ち合わせをして、最終的にNetflixになったアイデアもその中に含まれていた。
より詳しい内容はこちらから
How to kickstart and scale a consumer business
ここまででだいたいLenny's Newsletterのコンテンツ内容やテーマはざっとご理解いただけたと思う。つまりIT企業のことだ。そのテーマはとても一般的でネット上にたくさんの情報が溢れている。ニュースレターの基本戦略として「ニッチを攻める」に完全に沿っているとは言えない。
実際、同じテーマのニュースレターは星の数ほどある。ではなぜLenny's Newsletterがこれほどに人気なのかの私なりの分析を以下に書いた。
あるインタビューでLenny氏が彼のニュースレターの異常な人気の秘密を聞かれて答えていたのがこれ。
その質問はものすごくよく聞かれるんだ。でも答えはシンプルで「Consistency(継続性) and quality(コンテンツの品質) 」だけ。
ニュースレターはカンタンなメディアじゃないから、裏ワザもハックも無いんだ。ごめんね。きっと期待してた答えじゃないよね。こう言ってしまうとだいたいガッカリされるんだけど、これが真実なんだ。
とにかく品質のいいコンテンツを毎週決まった時間に読者に届けること、これしかないよ。
ずっとLenny's Newsletterを読みこんでいくと彼の言っている意味がものすごく分かる。テーマは普遍的ではあるが、その分析が独特でここでしか読めないような内容になっている。分析の切り口や結論までの導き方が「うーん、なるほど」と思わせる独自性がある。
いい分析記事を一定の期間で読んでいると「今週のはまだかな」とそのリズムでLenny氏の記事を待つようになってしまう。
Lenny氏が記事内容のアイデアはどこから来るのか?との質問に対する答えがこれ。
ほとんどの内容は読者からのフィードバックがアイデアの元だよ。読者がなにかを質問してきたとする。それに答えるのは当然だけど、それらはメッセージとして受け取るべきなんだ。
質問ってのは「私はこんなテーマの記事が読みたいです」って思いが変換された姿なんだから。
高品質な内容の記事を週に1回、定期的に発行するには、それ相応のアイデアをコンスタントに出す必要がある。彼の言うフィードバックの活用はとても参考になった。
アーカイブをさかのぼって昔のLenny氏の記事を読むと、ちょっと趣向が異なっている内容も見られる。おそらく読者からのフィードバックを受けて、そこから変容したのが今のニュースレターなのだろう。
ということで私もフィードバックをお待ちしています。マシュマロからなら匿名でコメント可能です。ぜひください。
Lenny氏はあるインタビューでSubstackという彼が使っているニュースレター配信プラットフォームにレコメンド機能がリリースされたことが急成長につながった、と語っていた。
購読者数のグラフを見ると実際にそのように見える。
しかしこのことだけを真に受けることはできない。なぜならリコメンド機能はSubstack上の全てのニュースレターに共通する機能だからだ。そんな中でなぜLenny's Newsletterだけがこれほどの急成長があったのか?
それはやはり誰もが「紹介したい!」と思わせるほど記事の質が高く、紹介した先の人たちにもメリットがあるし喜んでもらえると思っていたからだろう。
Lenny's Newsletterはシリコンバレー文化のハイコンテクストが散りばめられていて、知っている人が読むととても気持ちがいい。
日本では最近、タワマン文学というのが話題になっているようだ。私の理解ではタワマン文学はものすごいハイコンテクストだ。つまり言語外の文脈を高度なレベルで理解していなければならない。ある物語で、東京のあるデパートのお菓子の店の固有名詞が出てきた。それを知っている人は「あーあそこのお菓子を買う人って、こういう感じの人だよね」と共通理解があって、それが共感を呼ぶし、そういうのが人気の秘密なんだろう。
あれは日本語を勉強した外国人が読んでも東京生活の理解が無ければ、まったく楽しめない小説だろう。私自身も海外生活が長すぎて、東京生活の理解が雑だから、作品が意図した内容の半分も分かっていない気がする。
だからこそ感じるのがLenny's Newsletterはシリコンバレーとか英語圏のITの現場にいる人にとってはひとつひとつの言葉や表現がとても楽しいし「あーそれ!それ!」ってなるのだと思う。しかしそれ以外の人にとっては「なんでこのニュースレターが億単位も稼ぐんだ?」ってなってるように感じる。
そこには「言語外の文脈」が理由としてあるからだ。
どこまでLenny's Newsletterを読んでもカンタンにはマネができないことばかりだ。分析するにはノウハウと経験が必要だし、いい文章もカンタンには書けない。継続性とコンテンツの品質が重要なのは分かっていても、そんなのがポンっと出せたら誰も苦労しない。とにかくLenny's Newsletterのマネは難しい。
しかし学ぶことはできる。ニュースレターの運営で苦労している時に「どうやったらいいんだろう?」と考えている時のほとんどのは裏ワザ的なモノを求めてしまっている。
そんな時にLenny's Newsletterから学べるのは「そういうしょうもない裏ワザの探索なんてやってないで、もっと真っ正面に読者に向き合って質のいいコンテンツを供給すること」。
これはニュースレターに限らずあらゆる種類のコンテンツを発表しているクリエイターに共通する学びだと思った。
今回の分析は以上です。
このニュースレターでは常時みなさんからのご意見とご質問を募集しています。
ジャバザハットリさんの紹介されていたTwitterバズのスキーム、めちゃくちゃ流行していますね。そのやり方でやっている人を非常によく見かけるようになりました。
1点気になったのですが、このスキーム、素晴らしい一方で見かける多くの人が著作権を無視した画像の使用を行っていたり、引用のルールを超えた過度な引用をやっていたりするあまり宜しくない事例も散見されるように既になっていますが、このことについてこのスキームを提唱した本家の方は何か補足や説明などしておられたでしょうか?
割とすぐに問題になりがちな可能性があるので、優れた方なら何らか対策や注意喚起などしているのかな、とふと思いまして。
めちゃくちゃ流行ってるんですか?もし本当にそうだったら、それは嬉しいお知らせです。コンテンツの質が上がるのだったら、誰にとってもいいことですし。
ただご指摘のように著作権はしっかり守らないとダメですよね。
Dickie Bush氏がそこまで著作権について言及されているのは私が見た限りでは無かったです。だからといって著作権を無視しているようには見えないです。つまり常にネタ元があれば引用という形で入れているからです。
それとネタ元がハリウッドスターでも、なにかの作品であっても、それらのビジネスを阻害しているようには見受けられないです。むしろ紹介という形で応援している部分の方が強く感じています。
イラストレーターさんが描いた絵をいかにも自分が描いたようにツイートするのは明らかにルール違反ですが、彼がそんなことしているのは見たことないです。
法律の素人意見ですがDickie Bush氏のツイートを元に誰かに訴えられることは、限りなくゼロに近いと思います。
いつも拝見しております。一つTwitterの運営方法で気になることがありましたのでメッセージを送ります。それは、Twitterスレッドのネタ元をどのように探しているか、についてです。
Twitterでストーリーテラーのような面白いネタを毎回探すことはおそらく非常に大変だと思います。日本語でスレッドをバズらせている人をみると海外のスレッドを許諾なく翻訳して、あたかも自分がオリジナルのようにスレッドを作成し、最後にソース元としてオリジナルのツイートのリンクを貼るといったものを見かけます。これは著作権の翻訳権や翻案権を侵害しているものだと思います。
ジャバ・ザ・ハットリさんのツイートは、おそらく自分でネタを調べてきて、スレッドとして再構成されているのかもしれませんが、どのように著作権の問題をクリアされ、スレッドのネタ元を探しているのかについて興味があります。 よろしくお願いいたします。
ネタ元を探す過程はいつもだいたい同じです。
というのがほとんどです。
それとネタを調べる時に英語のツイートはよく参考にしています。ただほとんどの場合はそのまま翻訳したのではいいツイッタースレッドにならないので、そのテーマをネットやらで調べなおして書いてます。後はYouTubeですね。
例えばこちらのスペースXのグウィンのツイッタースレッドを作る時にはいろんなネット記事やらグウィンのインタビュー動画を参考にしました。たくさん調べた結果で複数ある引用元のどれとも異なる構成になっているので引用は書きませんでした。
ロケット事業で快進撃を続けるスペースXのボスは?
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ジャバ・ザ・ハットリ🇩🇪←🇸🇬←🇯🇵 @newsletter
もちろんイーロン・マスク
でもアメリカ宇宙産業界の人達に同じ質問をすると違う答えが返ってくる
それはグウィン・ショットウェル、と
スペースXのプレジデント、グウィンが業界No.1のビジネスリーダーと言われる理由とは?
>> つづく pic.twitter.com/ut0wmBGtq2— ジャバ・ザ・ハットリ🇩🇪←🇸🇬←🇯🇵 (@nodenodenode1) March 21, 2023
なので回答としてはネタはいろんな場所から仕入れている、になります。
それとネタのアイデアは単なる最初のスタートに過ぎないです。解説記事にあったように肝心なのはそのストーリーやフックをどう作るのか、になります。
例えばスペースXのグウィン・ショットウェルさんがすごい、というネタがあったとして、それさえ書けばバズるってほど単純ではないですよね。
私は最初、グウィン・ショットウェルのスレッドをテキストファイルに書いて、一晩寝て次の日に読み返しました。その時の感想は「なにが言いたいのかまったく分からない」でした。自分で書いておいて、とても人に読ませられないと気が付きました。そこから何度か手直しした結果がツイートした内容になります。まだまだ修行が足りないので、サッといいスレッドが作ることはできてないです。
誰かのバズった内容をコピーするだけで再現できるほど単純ではない、というのが実感です。
著作権の問題提議ありがとうござます。ネット上で情報発信する上でしっかり認識しておくべきことですよね。私も気をつけたいと思います。
他にもたくさんご質問とご感想をお待ちしています。ぜひください。
あなたがクリエイターで少しでもニュースレターの発行を考えているのなら、ぜひこの「【週間】1万ドル以上を稼ぐ個人サブスクメディアを徹底的に分析したらこうなった」を購読してください。あらゆるノウハウを詰め込んでます。きっと参考になるはず。
ではまた次回の月曜日の朝にお会いしましょう。まだ未購読の方はまた次回に会うために購読が必要ですよ!