第7号目の今回は旅行がテーマのニュースレターを事例としてとりあげた。調べていて分かってきたのは旅行ニュースレターは厳しい。誰かがどこかに旅行に行って、そのことをいた記事が毎週届いて、それに課金するか?ほとんどの人が「そういう旅行ブログはよくあるよね、無料で読めるやつ」ってなると思う。
今回のニュースレターはそういう参入障壁を見事に突破して見せてくれた事例になる。
このニュースレターはコンテンツのクリエイター、自分のファンを得たい人、課金モデルを成り立たせたい人に向けて書いている。
個人でニュースレターの運営に成功している例を毎回ひとつとりあげ、そのコンテンツを徹底的に調べてビジネスモデルの仕組みから、なぜそんなにウケているのか、を独自分析してレポートする。あなたがクリエイターの方ならとても参考になるはず。
今回で7回目になるし、相当数の英語圏で流行ってるニュースレターを読み込んだことになる。毎回いい英語ニュースレターを分析して、その他にも調査と勉強のために読んだのも含めたら数え切れないぐらいに読んでいる。
それで分かってきたことのひとつが「ニュースレター×サブスク」が作り出した独特の収益システムはクリエイターにそれだけでも食える道を示したこと。それはニュースレターというメディアから発信する情報の幅を誰も予想しなかった領域にまで広げている。
ニュースレター以前、もっと言うとネット以前から個性的なクリエイターはたくさん居たが、そのほとんどは世に作品を放つことなくどこかに消えてしまっていた。原因は「そんな変なことしてても食えないよ」ということだった。誰でも何かで食っていかなくてはならないし、食えなければ終わる。
ニュースレターというメディアはそういう変かもしれないが、がんばっているクリエイターの活動を後押しする。むしろ「かなり変で個性的な情報発信をしている人にしか食えるようにはならない」にまでなっている。
いろいろ英語ニュースレターを読んでいると「この著者は確実に変!この人ヤバい」ってのが多い。それで活躍しているし、収益はバリバリに稼ぎ出しているのが分かる。
なんていい時代になったんだ、と。
なのであなたもその個性を存分に発揮してみてはいかがだろうか。ニュースレターの世界はそんなあなたを後押しするようにデザインされているのだから。
今回の事例が正にそう。
個性的なクリエイターが旅をしながら、写真をとって文章を書いて、それをニュースレターとして配信することですごい収益を得て、その資金でまた旅を続けているのだ。
今回とりあげたのはChris Arnade Walks the World(クリス・アーネイドの世界歩き)。旅行をテーマにしたニュースレター。どこを探してもニュースレターの収益に関する言及はなかった。しかしSubstackにはthousands of paid subscriber(数千の有料購読者数)とあるので1000から9000までの有料購読者がいることになる。購読料は一人あたり月額7ドルなので、どんなに少なく見積もっても月に7000ドル(約90万円)から多くて約900万円ぐらい。実際はその間のどこかだろう。いずれにしても著者の元にはそれだけでも十分なぐらいの収益がニュースレターから入っていることになる。
プロのライターであり写真家でもあるChris Arnadeさんだけあって、文章と写真のクオリティーがめちゃ高い。基本的には彼が世界中を旅行する中で訪れた街の風景やそこで暮らす人々を描写している。
そしてそれは彼自身が言うようにたくさんの人が暮らす場所ではあるが、旅行者が好んで訪れるような場所ではない。ドラッグの売人がうようよといる場所だったり、どっかから盗んできた物を路上で売ってる所だったりする。そんな場所を持ち前のカメラの腕前でなんとも情景を豊かな写真を掲載している。
国はヨルダン、キルギスタン、マンチェスター、ニューヨーク(のヤバそうなとこ)、サンアントニオ、キーウ、ハノイ、ソウル郊外とほぼ旅行者が行かない場所のあまり足を踏み入れない地域ばかりになっている。
写真というのは原理的にはスマフォのボタンを押せば誰でも撮れる。でも「クリス・アーネイドの世界歩き」を見ているといい写真はボタンを押しただけでは決して撮れないことを知らされる。
人によっては好みが分かれるかもしれない。でも少し写真を見てみれば、好きか嫌いかといった好みを別にして、彼の写真のクオリティーがいかに高いかを感じるだろう。普通の観光客が撮った写真との差は歴然で、ひとめ見ただけでも心に何かを残す写真だ。
私の旅行の方法という記事がとても端的にこの「クリス・アーネイドの世界歩き」を言い表しているので概要を意訳した。
私はほとんどの人がするような旅行はしないし、博物館にも美術館にも行かない。
地球上の人たちがどんな暮らしをしているのか、それを知るために旅をする。小説を読むのと同じように、旅は別の人生への入り口になる。そして小説とは違って、登場人物はリアルタイムで物語り、決して終わることがない。
地元の人になってできるだけ溶け込み、そこの人たちを会話すること。
あまり人が訪れない地域に行く。多くの人が住んでいるけれども、あまり人が訪れない地域。街のイケてないところ。
最初のステップは、グーグルマップで都市を表示し、レストランタブをクリックする。何千ものレビューがあるファンシーで人気のレストラン地域が出る。
これらは通常、街のクールな部分であり、私はそれを避ける。金持ちアメリカ人の集まるイケてる店構え、ヒップなバー、何百万ものインスタグラム投稿がある人気の場所。
それは見逃せない、ではなく私にとっては「見逃すべきスポット」になる。
旅の途中で食事をする時の基準は食事の質ではなく、そこにあるコミュニティであり人々。
イスタンブールの片隅でひとりの老人がきりもりしている古いバー。そこの常連客達も空気も全て私好みの場所。もちろん誰も英語を話せない。
そんな場所とそこで生活する人々を紹介する。
ここまでで「クリス・アーネイドの世界歩き」がどんなニュースレターなのかはだいたいイメージしていただけると思う。さらに詳細が知りたければぜひChris Arnade Walks the Worldを覗いてみてください。
課金体系はすごくシンプルで月に7ドルを課金すれば全てのコンテンツが閲覧できる。無料だと途中までしか見れない。ただそれだけ。
このやり方で数千人の有料購読者を獲得している。
次章からなぜこのニュースレターが人気なのかの私なりの分析した結果をレポートする。
「クリス・アーネイドの世界歩き」の話の前にまず旅行ブログ全般の状況について。旅行に関するニュースレターをいろいろと調べてみて分かってきたのは、旅行情報で課金するのは非常に難しい、ということ。旅行をテーマにした個人ニュースレターでしっかり売上げが立っているのはあまり無い。
ヨーロッパで多いのがある程度の規模の旅行ウェブメディア。イビサ島、ギリシャの島や北欧などの人気の高級リゾートみたいな場所でちょっとマニアックでオシャレな料理を食べさせてくれたり、新しいヨガとかスパとかが体験できる、みたいなのを紹介する。そこにはすごいキレイな写真があって、見れば誰でも「行ってみたいなー」と思わせるようなのがある。しかしこれには難点があって、取材にコストがかかり過ぎること。写真もプロが撮らないとダメだし、それぞれの施設も基本的にはラグジュアリー思考で料金が高そうなのばっかり。
それらをニュースレターにして毎週発行するにはそれ相応の予算と人材が要る。
その一方で個人が出している旅のニュースレターはその99%がブログの旅行記とまったく変わらない。「あたしイタリアに行ってきました(ハート)」みたいなの。数週間後に本当にイタリアの同じ街に旅行する計画がある人が検索してヒットしたブログなら読まれる。ただしそれは無料でしかも旅行の計画がある場合に限る。
有料ニュースレターのように定期的に配信されて、しかも課金して読まれるようなものにはなりにくい。
旅行ブログはネット上にゴマンとある。ちょっとググったらこれでもかってぐらいにヒットするのが旅行ブログ。つまり旅行ニュースレターは超レッドオーシャンといえる。
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