第１０１回目の今回はある統計と予想をテーマにした人気ニュースレターを取り上げた。

2016年、トランプ初当選の朝のニューヨークは「ゾンビによる世界の終末」のようだった。しかし今回の2024年の再選の朝、街は静かに日常を過ごしていた。この劇的な変化の理由を独自のデータ分析で解き明かす、あるニュースレターの手法を徹底解説した。

個人でニュースレターの運営に成功している例を毎回ひとつとりあげ、それを徹底的に調べてビジネスモデルの仕組みから、なぜそんなにウケているのか、を独自分析してレポートしている。あなたがクリエイターならとても参考になるはず。

👫 もくじ

1. 写真日記：Meta Quest 3の広告
2. USA！USA！ドナルド・トランプ！
3. 【他人のニュースレターを勝手に分析】選挙予測の天才が28万人を魅了するニュースレターの正体
4. 著者Nate Silver氏の経歴
5. ニュースレターの実績
6. ゾンビの街から日常の街へと変わりゆくニューヨーク
7. コンピュータが80,000回シミュレートした選挙結果
8. データが見せる「もうひとつのアメリカ」
9. 既存メディアにはない独特の分析手法
10. シングルヒットを二塁打に伸ばす編集力
11. 「独自の視点」と「タイミング」が記事を爆発的に広める
12. 新しいメディアの幕開け

📸 写真日記：Meta Quest 3の広告

バス停の広告にまでこんなのがあった。

🗽 USA！USA！ドナルド・トランプ！

最近の私の中で最も熱いトピックはドナルド・トランプ。もうネタ的に面白すぎる😂

コンテンツとしてこんなに数字を持ってる大統領って彼以外にありえない。Xに「トランプ大統領」って書いて投稿すれば必ずバズる。これ４M（４００万ビュー）いきました。ありがとうございます

	ジャバ・ザ・ハットリ🇩🇪←🇸🇬←🇯🇵
	@nodenodenode1

「お前は負け犬だ」と父に言われ続けた少年は４５代、４７代アメリカ大統領になった

父から学んだ教訓

「狂犬になれ。勝つためなら何でもやれ」

その教えがアメリカを変えることになる

つづく↓ pic.twitter.com/zcwhUt9420

— ジャバ・ザ・ハットリ🇩🇪←🇸🇬←🇯🇵 (@nodenodenode1) November 21, 2024

と、いうことで今回の分析ニュースレターはアメリカ大統領選挙がテーマ。どうぞー

【他人のニュースレターを勝手に分析】選挙予測の天才が28万人を魅了するニュースレターの正体

今回取り上げたのはSilver Bulletin。選挙予測とデータ分析に特化したニュースレター。選挙の行方や政治のトレンドを詳細なデータ分析とともに配信する超人気のニュースレター。

このニュースレターの選挙予測は何億回ものシミュレーションに基づく綿密な分析が好評。数々の選挙結果を予測し、的中させた実績を持っている。

🎲 著者Nate Silver氏の経歴

Silver Bulletinの著者はNate Silver氏。統計家、作家、ポーカープレイヤーとして知られる選挙予測の第一人者。

Silver氏は野球統計分析からキャリアをスタート。Baseball Prospectusで選手予測システムPECOTAを開発し、セイバーメトリクスの分野で革新的な成果を上げる。2008年にFiveThirtyEightを創設し、データ駆動型の選挙予測で注目を集める。数々の大統領選挙で結果を的確に予測し、「世界で最も影響力のある100人」（TIME誌）に選出される。

現在は、ニュースレターの発行と並行して、予測市場のPolymarketのアドバイザーも務める。

プロフェッショナルなポーカープレイヤーとしても活動している。

徹底的なデータ分析と確率論的思考で、政治分析の新しい分野を切り開いた人。

📊 ニュースレターの実績

Silver Bulletinはニュースレタープラットフォームのサブスタック政治部門で３位に位置している。

購読者数は２７万９０００人（２０２４年１１月現在）。

英語圏の政治分野は競合がひしめいている。そんな分野でここまでの実績を叩き出しているのだから、本当にすごい。

以下にSilver Bulletinの記事をいくつか要約した。

🚉 ゾンビの街から日常の街へと変わりゆくニューヨーク

Silver Bulletinのニューヨークに関するの記事が興味深かったので要約した。

2016年、トランプ氏が初めて勝利した時のニューヨークは「ゾンビのによる世界の終末」のようだった。地下鉄で出会った男性は言葉を失い、ただ「何が起きたんだ？」という戸惑いだけを体全体で表現していた。
しかし今回の2024年の朝、街は静かに日常を過ごしていた。誰もがトランプの再選を普通に受け入れているようだった。この違いは単なる「慣れ」ではない。ニューヨークが大きく変化していた。
数字がそれを物語っている。トランプ氏の出身地クイーンズの得票率は2016年の21.8%から2024年の38%にまで跳ね上がった。
民主党の牙城は崩されつるあるが、肝心の民主党員は気がついていないようだ。

記事の最後で「答えは豪華な政治家パーティーなんてやってないで、クイーンズの大衆バーに行けばすぐに分かるのに」と書かれていた。

データは確かな変化を示しているが、その本質を理解するには街に出て、人々の声に耳を傾ける必要がある、と。

🔍 コンピュータが80,000回シミュレートした選挙結果

Silver氏は選挙直前に、AIモデルで80,000回もの選挙シミュレーションを実施。そのうち4,660回、出現した「最も可能性の高いシナリオ」が、見事に現実の選挙結果と一致した。トランプ氏が312人の選挙人を獲得し、7つのスイング州を全て制し勝利を決めるという結果だった。

しかし、Silver氏のニュースレターの真の価値は予測の的中だけではない。むしろ、その分析過程で明らかになった「アメリカ社会の意外な変化」の方が興味深い。

例えば、カリフォルニア州やニューヨーク州での民主党支持率の低下は、一見すると民主党にとって痛手に見える。しかし実は、これらの州では「必要以上の」票を得ていたため、支持者が他州に移住することで、むしろ全体としての勝算が高まる可能性があるという逆説的な分析まで示している。

データが出してくるストーリーはとても興味深い。

🐏 データが見せる「もうひとつのアメリカ」

Silver Bulletinはデータを通して「もうひとつのアメリカ」を映し出している。

アメリカに住んでいたとしても、一個人が直接触れ合える人々の数は限られている。ましてや政治的な話題を深く語り合える機会はさらに少ない。

Silver氏のニュースレターはAIによる選挙シミュレーションと、投票データにより、何百万人もの有権者の動向を分析することで、個人の経験では決して得られない「アメリカ社会の全体像」を示している。

それは時として、政治的には絶対的に安定だったニューヨークでさえ大きく変化しているという衝撃的な発見があり、従来の常識が覆される瞬間の記録でもある。

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ここまででだいたいSilver Bulletinの内容をざっとご理解いただけたと思う。

いつもはこの辺で有料コンテンツの壁を作って「ここから先は有料会員さんに向けのコンテンツになります」とやっているが、今回は全編無料なのでお楽しみください。

ここから先はなぜこのSilver Bulletinが難しい政治記事にも関わらず２８万人近くもの購読者数を獲得するほどに人気なのか、その理由を独自分析した。

🧪 既存メディアにはない独特の分析手法

Silver氏のニュースレターが支持される最大の理由は、既存メディアが見落としがちな変化をいち早く察知する力。それは単なるデータ集計ではなく、以下のような独自の分析手法による

1. 複数データの組み合わせ

• 投票データと人口移動統計の掛け合わせ
• 出口調査と経済指標の相関分析
• SNSの反応と実際の投票行動の比較

2. 時系列での変化の追跡

• 2016年からの継続的なデータ収集
• 短期的な変動と長期的なトレンドの区別
• 予測モデルの継続的な改良

3. 意外な相関関係の発見

• 生活費高騰と投票行動の関係
• コミュニティの変化と政治意識の相関
• 従来の常識では説明できない現象の解明

こんな見たこともないような手法で解説されたら「購読したい！」と思わずにはいられない。

🎯 シングルヒットを二塁打に伸ばす編集力

ニュースレターの成功には、優れたコンテンツを作るだけでなく、それを効果的に「売る」スキルが重要とSilver氏は説いている。具体的には以下の4つの要素に注力している：

1. 魅力的な見出し（最重要）
2. 冒頭部分の工夫
3. プレビュー画像の選定
4. SNSでの効果的な宣伝

特に見出しは決定的に重要で、メールの件名として表示されることを意識し、シンプルで力強いものが必要になる。「ジョー・バイデンは降りるべき」といったストレートな見出しが効果的。

Silver氏は毎月、記事のパフォーマンスを「購読者数」「有料会員数」「いいね数」「開封率」「閲覧数」「シェア数」などの指標で検証し、これらの要素がどう影響したかを分析している。さすがデータ分析のプロ。

良いコンテンツを作ることは当然として、それを読者に届けるための「パッケージング」にも同じくらいの労力を使うべき、と。

⚡「独自の視点」と「タイミング」が記事を爆発的に広める

反響の大きいホームラン記事は「独自視点」と「タイミング」という2つの要素が重なった時に生まれる、と語っている。

ホームラン記事の要素

1. 自分にしか書けない独自の洞察がある
2. ニュースが起きた絶好のタイミングで発信している

例えば、彼の最も閲覧数の多かった記事は通常は最も閲覧が少ない土曜の夜に配信された。内容はアイオワ州の世論調査に関する分析。

予定していた夜の予定をキャンセルして記事を書いた、という。

その分野での「最初の信頼できるレポート」となることで、他のメディアからも引用され、その話題の枠組みになることができる。

スピードと深さのバランスを取りながら、自分の専門分野で重要なニュースが起きた時には、即座に対応できる態勢を整えておくことが重要だという。

🌅 新しいメディアの幕開け

従来の主流メディアが影響力を失うなか、新しい形のメディアが台頭している。特に注目すべきは、個人が運営するメディアの躍進でSilver Bulletinこそが、そんな新時代を象徴するニュースレターのひとつになっている。

アメリカの若者層に圧倒的な支持を得ているジョー・ローガンのポッドキャストで、ドナルド・トランプと対談が配信された。計3時間の対談が1週間で4000万回再生された。これは3大ネットワークのニュース番組の視聴者数を合計して倍にしてもなお及ばない数字。

視聴者は大手の既存メディアから個人メディアへと確実にシフトしている。

なぜ個人メディアがこれほどまでに支持されるのかはSilver氏が答えを示している。彼は選挙予測のプロフェッショナルとして、既存メディアでは見過ごされがちな真実を配信していた。

個人メディアには、既存の枠組みにとらわれず、データが示す真実に忠実に向き合える強みがある。これはスポンサーや支持母体がある大手既存メディアには絶対にできないこと。

これは単なるプラットフォームの変化ではなく、より深くアメリカ社会を理解するための、新しい窓が開かれたことを意味する。

主流メディアの凋落は、むしろ私たちの視野を広げてくれる可能性を秘めているし、個人ニュースレター配信者の無限の可能性を示しているのだろう。

ニュースレター配信に興味のあるからはぜひ「みんなのニュースレター」での配信をお願いします！

今回の分析は以上です。

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