第85回目はAIのしかもAIチップに特化して解説しているニュースレターをとりあげた。
NVIDIAは最近のアーキテクチャBlackwellを発表。従来の30倍の速さがあり、載っているトランジスタの数は2080億個。
これだけを聞いても「はぁ?だから?」となるだけ。でもそこには深いAIビジネスの仕組みがあることを、このニュースレターから知った。
個人でニュースレターの運営に成功している例を毎回ひとつとりあげ、それを徹底的に調べてビジネスモデルの仕組みから、なぜそんなにウケているのか、を独自分析してレポートしている。あなたがクリエイターならとても参考になるはず。
夏のドレスデンもなかなかにいいところ。
Discordのコミュニティをやっているのでニュースレターや情報発信に興味のある方はぜひご参加ください。
Discordの機能とかいろいろと分かってないことがあって、参加いただいた方たちにたくさんのアドバイスをもらった。ありがとうございます!!
今回取り上げたのはSemiAnalysis。テーマはAIチップと半導体。内容はとても専門的で難しいニュースレター。
著者はDylan Patel氏。
以降の画像は全てSemiAnalysisからの引用。
Dylan Patelが本名なのかも分からないし、顔写真も公開されていない。しかしそんな著者の素性なんか、どっちでもいいぐらいにニュースレターは人気。
無料の購読者数は約12万人。
Xアカウントのフォロワー数は4万人。
ビジネスモデルは有料購読で年間契約のみ。値段は年間470ドル(約6万9千円)。
有料購読したい読者にはこの選択肢しかない。月契約とか一切なし。かなり強気の値段設定になっている。
そしてこれがめちゃくちゃに儲かっている。Substackの有料購読でテクノロジー部門のトップランクに位置している。あの強豪がひしめくテクノロジーの分野でこれだけの収益をあげているのだから、これは本当にすごい。
そして内容をしっかり見ていくとあえて月契約がなく、強気に年契約のしかも高額なプランしか用意していない理由が分かってくる。
SemiAnalysisは最初から最後まで半導体とAIチップの話。とても専門的で専門用語もバンバン出てくる。AIチップとはAI処理に特化した半導体チップ。
以下にSemiAnalysisの記事のタイトルをいくつか抜粋した。
かなり専門的な内容になっている。なぜこんなニュースレターがウケるのか?その理由を把握するには、まず現在のAIビジネスの理解が必要になる。
2024年の現時点ではAIと言っても使い道はチャット、画像生成、完全ではない自動運転など分野が限られており巨大な収益を生み出すにはまだまだ課題が残っている。
「タンパク質の折りたたみ構造がAIで解析されてとんでもない新薬が開発されそう」って?そんなのできてから言ってくれ!って話になる。
その一方でAIに対する投資額はすさまじい。
全てのビックテックが年間400億ドル以上のAI設備投資を行っている。つまりこの投資分を回収できるだけのモノにするには100兆円クラスの収益を作り出す必要がある。そんなのはどこもまだ生み出せていない。
仮にあなたがGPT4-oやその他のAIツールに多少は課金していたとしても、そもそもの投資額がデカすぎて焼け石に水でしかない。
いずれはAIが本格的に活用されて十分に投資額に見合う収益を得る日が来るかもしれない。しかし今はそんなレベルにはほど遠い。
たったひとつ、AIチップの製造元が稼ぎ出す莫大な収益を除けば。
NVIDIAはAIチップを製造する会社。AIチップはAIサービスを作り出すコンピューター頭脳の元になる。
ビッグテック企業たちはそのAIチップを「我こそ先に!」とNVIDIAから買っている。NVIDIAには数億ドル単位のAIチップの注文がさばききれないほどに舞い込み続けている。そんなNVIDIAは時価総額は3兆ドルを突破しアップルやマイクロソフトと並んで3トリリオンクラブに仲間入りした。
それはAIチップの大幅な需要増と売上増があったから。
AI事業を立ち上げるには巨大なコンピュータリソースとたくさんのAIチップが欠かせない。他のビッグテックもAIチップを自社開発して、わざわざNVIDIAから高価なチップを買わなくてもいいようにしようと計画はしている。しかし現状は各社も自社開発チップの稼働率は10%以下。
CUDAというチップの開発環境が業界スタンダートになっており、このCUDAをおさえているのがNVIDIA。現状はそうカンタンにはひっくり返りそうにない。
しかしここに来てNVIDIAの1強をひっくり返す可能性のあるスタートアップ企業が次々に出てきた。それはAIツールにおける学習と推論という2つフェーズから市場を的確にとらえた会社だった。
AIツールの開発は「学習」と「推論」の2つのフェーズからできている。
AIモデルに大量のデータを与え、パターンを見出させる。例えば、チャットAIに文章データを英語、日本語、ドイツ語、スペイン語などで大量に与え、特徴を学習させる。
学習済みのAIモデルは、新しい入力に対して推論を行う。AIチャットが「ウケるニュースレターの特徴は?」と聞いて、その答えを出す処理のこと。
学習フェーズに必要とされるAIチップのパワーはある意味で力でなぎ倒すレベル。ここでは巨大な資金と技術力を持つNVIDIAの牙城は崩せない。しかし推論フェーズではチップに求められる要素がたくさんあり、まだまだNVIDIAがカバーできていないことがある。
AI市場におけるNVIDIAの1強を脅かす存在はこの推論フェーズの市場にターゲットを絞ったいくつかのAIスタートアップだった。
Groqは推論フェーズ専用のAIチップを提供するスタートアップ。そのAIチップは速さが4倍でコストは1/3という。
ごちゃごちゃとした説明の前にその速さを実感する方法はここで実際に試しに何か質問をしてみるといい。めちゃくちゃに速い。レスポンス速度がChatGPTなんかとは全然違う。
なぜこんなことが可能になったのか。それはGroqは本来AIチップに求められいる他の全てを捨てて、ただ推論フェーズのチャットレスポンスだけに特化したからだ。他のことはできない。ただ今、最も需要の高いAIチャットだけなら最高の結果を最も低コストで出すから任せてくれ、という発想。
今の文字でタイプするチャットなら多少の遅延は気にならないかもしれない。しかし今後は間違いなく言葉で話して答えてもらうAIツールが主流になる。その時に2秒待ってから返答があるのと、0.2秒で返答するのとではユーザーの満足度がまったく違う。0.2秒なら人間との会話と同じなのだから。
前述のGroqの例はほんのひとつでしかない。他にも画期的なAIチップでAI業界の構造をひっくり返そうとする企業はたくさんSemiAnalysisに紹介されている。
だいたいここに書いたGroqの紹介でもSemiAnalysisの元記事を100倍に薄めて書いている。元記事はもっと技術的要件について言及しているし、知識のある人が読めばもっと読み応えもあるだろう。
ぜひ参照してみてください。
Groq Inference Tokenomics: Speed, But At What Cost?
ちなみに元記事ではGroqがAI市場に革命を起こすことにはちょっと懐疑的。その理由は100%テクノロジーの見解から。チップの設計を見て「確かに速いけど、このやり方でいいのかな?」と。
無料コンテンツはここまで。
ここ以降の有料コンテンツではこのSemiAnalysisがなぜ難しいコンテンツを配信しながら、バリバリの収益をあげ続けているのか、の理由について分析した。
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