第70回目は時事問題をテーマにしたニュースレターをとりあげた。その中の記事で「11人目の男の法則」を述べていた。
絶世の美女がひとりと10人の男が部屋にいる。10人の男たちが美女に花やプレゼントを渡し、彼女の美しさを伝える。しかし美女の心は動かない。そこに11人目の男が来る。女を見た男は「やぁ」と軽く挨拶しただけで、男たちの方を向き、彼らと楽しく話す。誰が美女の心を掴んだか?もちろんその11人目の男だ。
この短い話には人気ニュースレターの秘密が入っている。以下のレポートでその理由を解説した。
個人でニュースレターの運営に成功している例を毎回ひとつとりあげ、それを徹底的に調べてビジネスモデルの仕組みから、なぜそんなにウケているのか、を独自分析してレポートしている。あなたがクリエイターならとても参考になるはず。
ここはベルリンの家の近所の教会。宗教にはそこまで関心無いんだけど、煮詰まった時にここに来るとネタが降ってきたりします。ネタが降る場所を持つの重要ですね。
「みんなのニュースレター」で配信いただいている、ネテロさんはストーリーテリングのマスター。
ネテロさんの開催されているクローズドコミュニティに私も入っている。有益な情報がたくさん飛び交っていて、かなり参考にさせてもらった。
ご興味のある方はぜひ。
今回のテーマはストーリーテリング
今回とりあげたのはUncharted Territories。時事問題を解説したニュースレター。テーマはイスラエル・ガザ情勢、エネルギー、環境問題、AIによる経済への影響、など。
著者は元IT企業のプロダクト成長担当エグゼクティブのTomas Pueyo氏。
無料購読者数は8万人以上。有料購読は月に10ドルでコンテンツを全編読むことができる。ザっと計算すると有料購読だけで年商5000万円以上は稼いでいるかなり人気のニュースレター。
実はこのニュースレターはずっと前からここで取り上げるつもりだった。極めて学びの多いニュースレターだったから。が、なかなかレポートにできなかった理由がある。
レポート記事を書かなかった理由はテーマに一貫性が無くかつ難しいのばかりだったから。
「レポートを書いても読者の方達の参考にならないのでは」と考えていた。ニュースレターを開設した人が最もよく犯す間違いがブログのようにバラバラのテーマをその時々で書くこと。
ある時は仕事術を書いて、ある時は読書の感想、ある時は恋愛について、というように書く日の気分に合わせて何でも書くと購読者が集まらない。購読者からすると何のどんなテーマなのかが不明だと購読のアクションに踏み切れなくなる。もし私が誰かにニュースレターのアドバイスをするなら「テーマをひとつに絞って一貫性を持たせるべき」と真っ先に言うだろう。
それを真っ向から否定してバラバラのテーマで書かれているのがUncharted Territoriesだった。
それでもUncharted Territoriesには「ストーリーテリング」という最強の武器があった。
ストーリーは人の記憶に刻まれ語り継がれる。
戦争による死者数を報道しても、なかなか人の記憶には残らない。しかし映画「火垂るの墓」で悲惨な戦争下で大切な妹を亡くした兄の苦悩をストーリーで描くと人の記憶に刻まれる。
ストーリーテリングは小手先のテクニックでは終わらない。伝えるべきメッセージが重要であるほどストーリーテリングを正しく使わなくてはならない。
著者のPueyo氏の経歴は正にストーリーテリングのためにあったよう。
まずフランス人とイタリア人の両親が映画業界の人で父親が映画監督。幼少の頃からストーリーについての手ほどきを受け、スタンフォード大学にて心理学、デザイン、脚本、ストーリーテリングを専攻。それらの専門知識を活かして各種のIT企業のマーケティング、ブランディングを統括するエグゼクティブとして活躍。ストーリーテリングに関する本もいつくか出版している。
個人でMediumに書いていたブログが反響を呼び、2020年にニュースレターUncharted Territoriesを開設し、そこでも人気を得た。
ポッドキャストのインタビューでPueyo氏が「ネタはどこから仕入れてるのですか?」という質問に答えていて、それが興味深かった。
彼は「ほとんどのネタは科学論文から取ってます」と言っていた。科学論文にはネタがほぼ無限にある。しかもその分野の専門家たちによる精査もされている。かつほとんどの人に読まれていない。
確かにUncharted Territoriesの記事には論文からの引用がたくさんあり、データなどもたくさん引用されている。科学論文はネタの宝庫とも言える。
Pueyo氏にはウケるコンテンツの法則がある。それはこの2つを満たしていること。
ほとんどのこの世にあふれるコンテンツはこのどちらかしか満たしていない。2つを同時に満たすことは非常に困難だ。
価値のある情報
まず伝えるべき情報に価値が無くてはならない。科学論文にはふんだんに価値のある情報が含まれている。しかし読者とのコミュニケーションが欠けている。
コミュニケーション
そのコンテンツを見てもらう、読んでもらうためのコミュニケーションスキルが必要になる。TikTokなどでバズっているショート動画はコミュニケーションスキルが非常に高い。しかし価値のある情報が含まれていることは少ない。
価値のある情報を優れたコミュニケーションスキルで伝えることを狙っているのがUncharted Territoriesの強みになる。
これは購読者としても思い当たる。
イスラエル・ガザ情勢というとても複雑で難しいテーマを記事がある。でもなぜか最初の1章を読んだらもう目が話せなくなり最後まで読んでしまう。記事に織り込まれた、たくさんのストーリーに魅せられてしまうのだ。
これを支えているのがストーリーテリングになっている。
Uncharted Territoriesにある無数のストーリーは全てリングになっている、という。ある位置からストーリーがはじまり、終わりにはまた同じ位置に戻ってくる。
人にはストーリーに対して「いい!」と感じるパターンが決まっている。多くのストーリーテリングの解説書がその構成をいろいろと解き明かしている。ものによっては「ストーリーとは3部構成だ」と言ったり「ストーリーには7つの型がある」と言ったり。
そんな中でUncharted Territoriesの提唱する「ストーリーはリングになっている」はニュースレターのように何かを文字で伝えるメディアには非常に親和性が高い。
リングになって元の位置に戻るからはじめと終わりのコントラストが明確になり、ストーリーに納得性を持たせることができる。
全ての優れたストーリーに共通しているのはその構成がリングになっていること。
映画「ゴッドファーザー」は結婚式ではじまり、葬式で終わる。どちらの式においてもファミリーとマフィア家業の関係を示し対比させている。
「スターウォーズ」では銀河系の平和を望んだ田舎の若者が壮大な敵を倒して、元の平和な世界に戻ってくる。
「君の名は。」では最初は別の場所で夜空を見上げていた男女が最後は出会いまた空を見上げることになる。
ひとつの記事は全体構成を示すストーリーの他にたくさんのサブストーリーが織り込まれている。
例えば「OpenAIと人類に対する最大の脅威」という記事。AI技術が人類の脅威になりつつあることが解説されている。まずOpenAI社のCEOサム・アルトマンの解任劇のストーリーにはじまり、その後にも様々なストーリーと共にAIの脅威が解説されている。
難解で議論を呼びそうな内容ではあるが、最後まで読んでしまうのは次々に出てくるサブストーリーの語り方が洗練されているから。
それらのサブストーリーもやはり構成はリングになっている。
人はストーリーが元の位置に戻ると「ハッ」とするし、快感と納得を得る。
これを演出するために結論だけを先に持ってきてもいい。時系列で書くと1,2,3,4,5となっていた内容をそのまま最後の部分を冒頭に持ってくるだけで、5,1,2,3,4,5となってリング構成が完成する。
同じ構成を使っている映画、小説、アニメがいくつも思い浮かぶと思う。
これを自分のコンテンツにも応用すればきっと読者を惹きつけることができるだろう。
この構造はそのまま問題解決の構造になっている。問題は宿敵の登場、成り立ちそうにない恋愛、想定外の状況、だったりする。ストーリーの流れと共に進み、最後に解決されるから快感を得る。
ストーリーとはそのまま問題解決なのだ。
情報発信においては冒頭に書いた「11人目の男」にならなければならない。
ニュースレター、ブログ、音声配信、YouTubeでも同じ。何か伝えたいメッセージがあって、それをストレートに連呼するだけでは何も伝わっていないことがある。
そのまま伝えたところで「はぁ?」となって終わる。11人目の男のようにさらりと読者のこころを掴む技術が必要。その技術こそがストーリーテリング。どんなに難解な内容であっても、ストーリーに乗せることで読者に届くことをUncharted Territoriesが示している。
ここまで読んでいただいたあなたならなぜこの最終章でまた11人目の男の話が出てきたのかお分かりだと思う。みんなでストーリーを語りましょう。
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